「貴方さえ居れば、私はそれで良かったのです――・・・」
アイツも泣き叫ぶような声が最後に聞こえた。
闇の中にひっそりと浮かぶ、青白い月。
その月明かりが建物も薄暗く照らす。
オレの家だった“ワイミーズハウス”は暗い影を落としていた。
ガッ
暗闇の中からほんの僅かな音がした。
ガッガッガッ
その音は再度辺りに響きわたる。
ガツッ
そして、オレの背後でその音は止まった。
きっと月明かりがその光で音の主を照らしているだろう。
だが、オレは振り向かなかった。
――否、振り向く必要が無かった。
オレには最初からその音の主が分かっていた。
「――行ってしまわれるんですね、メロ」
まるで女みたいな高めな、子供みたいなアルトの声。
嗚呼、この声はやっぱり――・・・
「何しに来た、ニア」
ざあっと夜風が吹く。髪が靡く。
今のオレには、この風の音が心地よかった。
「どうしても、なんですか・・・どうしても、行ってしまわれるんですか・・・・・?」
紡ぎ出されたようなアイツの声は震えていて、
どこか、寂しそうだった。
「テメェには、関係ねぇだろ。別に2位の奴が居なくなっても、テメェの1位の座は変わんねぇよ」
「・・・そんなこと、考えてなんかいません!!」
闇の中に声が吸い込まれる。止まった風の音。
はじめて聞いたアイツの怒鳴り声を茶化すような余裕さは、生憎持ち合わせていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・か・・・・・」
アイツの噛みしめるとうな声が聞こえた後、ガシャンと大きな音がまた聞こえた。
背後に重さを感じた。
ちらりと横目で後ろを見ると
落ちたアイツのお気に入りのロボットと
・・・オレにしがみつくニアの姿があった。
「メロッ・・・・・メロ、メロ・・・!」
堰を切ったかのように泣き出したアイツは、
オレの知るアイツじゃなかった。
ドスッ
鈍い音がした。
オレに振り払われたアイツは地面にしりもちをついていた。
「触れるな」
また風が吹いた。
その風はワイミーズハウスの外へと向かっていった。
オレはその風に逆らうことなく進んだ。
もう振り向くことの無かったオレの耳に最後に聞こえたのは、
不快にもアイツの声だった。
「貴方さえ居れば、それで良かったのです――・・・」
(ふざけるな、オレにはお前なんか要らねぇよ)(オレはオレ一人で生きていく)
フリィです。もし良かったらどうぞ。
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